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旅・つれづれなるままに

細矢 隆男

第31回 唐招提寺・鑑真和上ゆかりの「瓊花(けいか)」を訪ねて


清楚な瓊花

青丹よし 奈良のみやこは さく花の 匂うがごとく いまさかりなり  小野 老

 この奈良時代の歌人・役人であった小野老(おののおゆ)の歌のように、まさに奈良の春の決まり文句の歌のように、春まっ盛りです。

 私事ではありますが、私は奈良に移住したのが2021年の3月からで、その年の6月20日から始めた薬師寺の大池からの美しい「黎明」の写真撮影を1年半550日間毎朝続け、指導いただいてます写真家・田付潤之朗先生のおかげで一冊の手作り写真集に成果を残すことができました。さらに秋に個展「あさまだき・神々の坐ます奈良」を開催することになりました。


私の写真集「あさまだき・薬師寺の大自然を撮る」

 冬場は天気も良くなく、太陽の位置も南に移動してしまうためと車の電子キーの故障も重なり、昨年12月から中止してました薬師寺の日の出前の撮影を5月から再開しました。これから半年間美しい薬師寺の塔と大自然の朝焼けの変化を楽しめます。

 京都・奈良はまさにゴールデンウィークで、コロナを吹き飛ばすがごとき勢いで観光客が押し寄せましたが、毎回のことですが、またコロナが再燃するのではないかと心配してます。

 京都では食事をするにも大変な混みようで、名店といわれるお店での食事はかなり前からの予約で満席。どこも列をなし、私の好きな「行き当たりばったりの楽しみ」は連休中はさすがにできませんでした。

 そんな中、奈良の早朝はすいていました。薬師寺での夜明けの撮影後、朝食をすませて訪れた唐招提寺に8時30分の開門と同時に入りました。


霧の唐招提寺

 私は毎日、日の出前に通う西ノ京大池に行く途中に孝謙天皇(称徳天皇)陵墓と鑑真和上の霊廟の横を必ず通りますから「孝謙天皇、鑑真和上、おはようございます」とご挨拶しています。孝謙天皇は西大寺、西隆寺を創建された偉業がありますし、鑑真和上は正式な戒壇を日本にもたらし、仏教の発展に寄与されました。当時の日本仏教界には「正式な『戒律』を受けた僧」がおらず、勝手に僧を名乗る「私度僧」も多く、国として正式な「受戒」した僧を必要としていました。そのため、実績と権威ある「正式な僧」を呼び、国家が認める、「正式な僧」を増やさねばならない必要に迫られました。そこで遣唐使を唐に送り、ふさわしい僧侶に日本に来ていただこうということになりました。


鑑真和上像(国宝・唐招提寺蔵)

 その鑑真の業績は井上靖さんの小説「天平の甍」に詳しくその経緯が掲載されています。

 そうした聖武天皇の要請に応じて、最初は航海の危険性から、僧たちは誰も日本に渡ろうとしませんでした。その様子を見ていた鑑真和上が、ならば私が行こうと決心されたのでした。


平城京に復元された遣唐使船

 鑑真和上は正式な僧のいわば卒業式の場である「戒律」を与える「戒壇」を日本にもたらすために五回の渡海を試みて失敗、天平勝宝五年、挫けずに6度目に半ば苦労と疲労により失明していましたが、何とか日本にたどり着き、聖武天皇の要請に応えました。そうした鑑真の決意といいますか、仏教の発展のためには命をかけても貫徹する彼の意思の強さはとても凡人の真似のできるものではありません。


瓊花

 正式な僧になるには、この壇上で10人の僧の行う儀式により「具足戒」を受けますが、これは禁欲その他の僧として守るべき戒律としての約束事(男性は二百五十戒)を守ることを誓う儀式です。「東大寺戒壇院」は日本で正式な僧としての「戒」を与える儀式を行う「戒壇」が最初に作られた有名な古刹です。


東大寺「戒壇」

 東大寺戒壇院のあと下野薬師寺、太宰府の観世音寺などに戒壇がつくられ、天下の三大戒壇といわれるようになりました。その鑑真が創設し、亡くなるまで住まいしたのが「唐招提寺」で、彼の墓所が奥まった霊廟として、いまだに多くの日本人たち、中国人たちから尊敬され、慕われながら時を隔てた時空を過ごし、日本の仏教を見守ってくれています。


唐招提寺のツツジ

 「瓊花」(けいか)は、この唐招提寺を開いたことなどで知られる中国の高僧、鑑真のふるさと、揚州を代表する名花で、聖徳太子と同じ時代の皇帝、煬帝が愛した花として中国でも大切に保護されてきた「名花」です。小さな白い花のまわりにアジサイのような「がく」をつけるのが特徴です。

 鑑真が「戒壇」をつくり、ゆかりのある栃木県下野薬師寺が、4年前に唐招提寺から分けてもらった1本の苗木を境内に植えたところ、ことしになって初めて花を咲かせたといいます。白い額紫陽花によく似た花ですが、紫陽花とは花の咲くタイミングが少し早く、違うようです。

是非機会を見てお楽しみください。


鑑真和上像と故郷揚州の名花「瓊花」

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