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家族で楽しむ里山術

里山研究家 吉澤 守(ヨシザワマモル)

ササユリが咲いたよ

岐阜県恵那市飯地町にあるファンフォーレストは、多くの都市住民が訪れ、有意義な時間を過ごす、日本国内ではあまり類をみない森です。年間にさまざまなネイチャーイベントが愛知県共済生活協同組合によって企画運営され、訪問者は自然とふれあいながら自然への理解を深めることの楽しさを体験します。

ファンフォーレストは、ツリークライマーという日本では新しいジャンルのアウトドアリングを展開するジョン・ギャスライトさん(ツリークライミングジャパン代表)が、日本で初めてツリークライミングを導入された森として、各方面から注目を集めています。私が、ファンフォーレストと出会ったのは、この森で日本初のツリークライミング・イベントが行われた頃でした。

当時のファンフォーレストは、長い間、人の手が加えられず、灌木が背丈よりも長く伸びた放置林のありさまでした。「ウルシのジャングルか!」そう思いながら、ウルシを掻き分けてやや平らな松林の中を歩くと、枯れ枝が堆積した地面の中に一本のササユリの小さな苗を見つけました。そして、そのササユリが小さな声で私に話しかけてくれました。
「以前は、このあたり一帯はササユリの群生地で、私の仲間がいっぱいいたの、だけど今は、生き残っているのは私だけになっ てしまって、とても寂しいの。昔のように仲間を増やしてくれたら、ここに来てくれる人たちにも楽しんでもらうことができると思うの!」その声で私は、即座 にファンフォーレストの整林作業に着手しました。

森の環境を整えることを目的とした整林家という職業をしている私は、こうした森の中の小さな植物や、そこに住む動物、そして野鳥たちとの毎日の出会いの中で、そうした動植物の"小さなささやき"をよく耳にします。大きな木が、私が森に入る瞬間をとらえて、笑顔を見せてくれたり、うたを歌ってくれたりもしますが、中には、悲痛な訴えも聞こえてきます。
その一つ一つの声を、森に住む動植物の立場に立って手を加えてあげると、森の仲間たちは、その声にちゃんと応えてくれます。

私があの時出会った一本の寂しそうなササユリの周りには、2002年のこの夏に新たに5本の仲間が増え、少しにぎやかになってきました。次の年は15本に、そして、元の群生地に還るまでに、あと5~6年のことと感じています。よく頑張ったネ、ササユリ。

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