文化講座
第1回【遠過去】について その1
このシリーズでは、イタリア語の基礎を学習した方を対象に、イタリア語の理解をさらにステップアップするためのシリーズです。初めてイタリア語を学習されたい方は、先ず、シリーズ「イタリア世界遺産の旅」と「誰でもわかるイタリア語」(2011年9月~2015年1月)から始め、続けてシリーズ「続・誰でもわかるイタリア語」と「旅に役立つ会話フレーズ集」(2015年2月~2016年6月)を参考にして学習されることをお勧めします。
イラスト 樋口佳代
【遠過去】について その1
現在形の用法には、記述的用法「...する、...します」と進行や状態を表す用法「...している」があります。例えば話す(parlare)の場合、(A)記述的用法では「話す、話します」、(B)進行や状態を表す用法では「話している」と使います。
【現在形の特殊な用法について】
(A)と(B)の用法以外に、以下のように現在形でありながら、過去や未来に繋がる働きをする用法があります。
- 過去に始まって現在もなお継続するであろう時の用法
Maria abita a Padova da sei anni.
(マリアは6年前からパドヴァに住んでいる) - 歴史的な人物の考え方や文章を引用するとき、その考え方などを表す用法
Il filosofo Cicerone scrive che la storia è maestra della vita.
(哲学者キケロは歴史は人生の師であると書いている) - 文学作品などで、過去の出来事を現在形を使って描写し、イメージを膨らませる効果を狙う、すなわち歴史的現在の用法
- 近い未来のこと、未来の確実なことを表す用法
Domani andiamo al mare!
(明日、私たちは海に行きます)
【遠過去の用法について】
イタリア語の過去形では、現在形の(A)と(B)の二つの用法が別々の過去形として使うので注意しなければなりません。
(A)記述的用法 ⇒ 近過去・遠過去「...した、...しました」
- (Io) Ho telefonato a Maria ieri sera.
(昨夜、マリーアに電話しました) - Tre anni fa io e Mario siamo saliti sulla Torre di Pisa.
(3年前、私とマーリオはピサの斜塔に登りました) - Lavorai sei giorni alla settimana quell'anno.
(あの年は、週に6日働いた) - Visitai l'Italia per la prima volta due anni fa.
(二年前、初めてイタリアを訪れました)
(B)進行や状態を表す用法 ⇒ 半過去「...していた」
- Aspettavo l'autobus da un'ora.
(私は1時間前からバスを待っていました) - Ieri a quest'ora eravamo ancora a Roma.
(昨日、この時間には私たちはまだローマにいました)
(A)の記述的用法の過去には、日常会話や簡単な日記や手紙などでは近過去で表します。実際会話などでは遠過去の代わりに近過去を使って表す傾向があります。しかし南イタリアやトスカーナ地方などでは、まだ遠過去で表す傾向があります。しかし文語として、歴史的な記述や文学作品、小説はもちろん、子供たちが読む童話に至るまで、遠過去が圧倒的に多くごく普通に用いられています。近過去は、「現在と関係性のある過去」を表す完了形で、一方遠過去は、「現在と関係性のない、時間的に心理的に遠い過去」を表します。遠過去は、現在と切り離し、事実を客観的に述べるときに使います。新聞やテレビの報道やドキュメンタリーな番組などでは頻繁に遠過去を耳にします。
例えば、よく伝記などでその人がいつ生まれいつ亡くなったと言う記述があります。
Dante Alighieri nacque a Firenze nel 1265 e morì in esilio a Ravenna nel 1321.
(ダンテ・アリギエーリは1265年フィレンツェで生まれ、亡命地のラヴェンナで1321年亡くなった)
歴史的な記述などの場合は、現在との関係性がないので、遠過去で表します。
私の母が、あるいは私の祖父がと言う場合はどうでしょう!
Mia madre è nata a Napoli cinquanta anni fa.
(私の母は50年前ナポリで生まれました)
Mio nonno è morto durante la guerra.
(私の祖父は戦争中に亡くなりました)
以上のように、身近な人の場合は、たとえ遠い過去であっても近過去で表します。話し手は、過去の記憶を呼び戻して話しているので、すなわち現在との関係性をもつことになり近過去で表します。
では「現在との関係性のない過去」を表す遠過去は、どのようなときに使うのでしょうか?
- Ieri ho incontrato tuo padre.
- Ieri incontrai tuo padre.
いずれも日本語訳は「昨日、私は君の父に会いました」となります。近過去を使った1.の例文は、「会いました」という過去の出来事は完了したことではあるが、その結果が現在もなお残っている。一方、遠過去を使った2.の例文は、現在とは関係性を持たず、過去の事実を客観的に述べています。上の例文1.と2.は、「昨日」というごく最近の話ですが、現在と関係性を持つ持たないは、話し手と過去の出来事との間の近い遠いという時間的な距離だけで判断されるのではなく、話し手の心理的な働きも大きく左右します。
遠過去の用法をまとめ
- 過去の特定の一時点において起こった過去
- 過去の一定期間続いた過去
- 過去の出来事を客観的に描写するときに使う過去
- ことわざや格言:Roma non fu fatta in un giorno.(ローマは一日にしてならず)
遠過去を使った例文
- Quell'anno cambiai macchina due volte.
(あの年は2度も車を換えました) - Stetti sei anni a Padova e poi mi trasferii a Milano.
(6年パドヴァに居て、後ミラノに移りました) - Cristofolo Colombo scoprì l'America nel 1492 e a Firenze morì Lorenzo il Magnifico.
(クリスとフォロ・コロンボは1492年にアメリカ大陸を発見しました。フィレンツェではロレンツォ・デ・メディチが亡くなった) - Il mio professore comprò una viletta in montagna.
(私の先生は山に別荘を買いました) - Michelangelo Merisi nacque a Caravaggio nel 1571 e morì a Porto Ercole nel 1610.
(ミケランジェロ・メリージは、1571年にカラヴァッジョで生まれ、1610年エルコーレ港で亡くなった) - Con quel brutto tempo noi decidemmo di restare a casa.
(あの悪い天気だったので、僕たちは家に残ることに決めた) - Quell'anno accaddero molti incidenti stradali.
(あの年は大変多くの交通事故があった) - L'altra sera uscì di casa senza ombrello e si bagnò tutto.
(昨晩、傘なしで家を出ましたので、すっかり濡れました)
B. 遠過去の活用
1.規則変化動詞の活用
遠過去の活用は、不規則な動詞が多いため難しく思いますが、先ずは規則的な活用から学習しましょう。
-are動詞、-ere動詞、-ire動詞の規則変化動詞では、下の表のように語幹の-a、-e、-iが残った状態で、一人称単数は-ai、-ei、-iiとなり、一人称複数は、-ammo、-emmo、
-immoとなります。二人称単数は、-asti、-esti、-istiとなり、二人称複数は、-aste、
-este、-isteとなります。三人称単数は、-ò、-é、-ìとなり、三人称複数は、-arono、
-erono、-ironoとなります。
-ere動詞では、表にあるように語尾が-etti、-ette、-etteroと別の形があります。使う側の文体の好みの問題であり、どちらを使っても大きな違いはないと思います。
Allora credei(credetti) in Dio.
(その時、私は神を信じました)
-ere動詞の多くは不規則に変化する動詞が多いので注意する必要があります。遠過去の難しさの一つには、この不規則な活用があります。次回に詳しく分かりやすく説明する予定です。
動詞の原形 | parlare (話す) |
credere (信じる) |
partire (出発する) |
io(私は) | parlai | credei(credetti) | partii |
tu(君は) | parlasti | credesti | partisti |
lui(彼は)・lei(彼女は) Lei(あなたは) |
parlò | credé(credette) | partì |
noi(私たちは) | parlammo | credemmo | partimmo |
voi(君たちは)(あなたたちは) | parlaste | credeste | partiste |
loro(彼らは)(彼女らは) | parlarono | crederono(credettero) | partirono |
2.不規則変化動詞の活用
a. 助動詞avere(持っている)とessere(ある・いる):不規則動詞ですが、よく使う動詞ですので暗記するようにしましょう。
avere | ebbi, avesti, ebbe, avemmo, aveste, ebbero |
essere | fui, fosti, fu, fummo, foste, furono |
- Dieci anni fa ebbi la fortuna di fare un viaggio in Grecia.
(10年前、幸運にもギリシャを旅行することが出来ました) - Dante Alighieri fu un grandioso poeta.
(ダンテ・アリギエーリは立派な詩人でした)
イラスト:カラヴァッジョCaravaggio(本名Michelangelo Merisi 1571-1610)の作品「ロレートの聖母」(Madonna dei Pellegrini):聖母マリアは画家の恋人、娼婦マッダレーナと考えられる。聖母の表現を生きるひとりの人間のモデルとした当時最も話題性に富んだ傑作。(樋口佳代)