愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

「天命起臥之道」に生きる

Dr.BEAUT・ソフィーリッチ代表
医学博士 山中 直樹

天命起臥之道と「沈黙」

 「沈黙」とは遠藤周作原作による江戸時代初期のキリシタン弾圧、人間性と神、信仰と人ひとりの命はを問うた作品です。
 遠藤周作没後20年で原作が発表されてから50年となる2016年にアメリカの巨匠・映画監督のマーティン・スコセッシが最初に原作と出会って28年間の長い間、温めてきた作品を「沈黙-サイレンス」として監督のみならず脚本、製作も手掛けて映画を完成させてわが国でも上映されています。
 遠藤周作は「沈黙」では原作者として、幕府によるキリシタン弾圧での「踏み絵」をするかどうかと人間性、宗教と命、強者、弱者との関係を問うているのです。
 宣教師・フェレイラが日本で棄教した理由を知りたいと信じられない弟子のロドリゴ神父とガルぺ神父が長崎に潜入しました。
 ロドリゴ神父達は師であり高名な宣教師フェレイラがキリシタン弾圧に屈したことが信じられなくて危険を冒して長崎に潜入、布教活動をしながらフェレイラを捜しました。
 幕府による激しい弾圧が行われる中で、長崎への潜入を手助けした隠れキリシタンのキチジローの密告によってロドリゴ神父も捕らわれて弾圧をされ、踏み絵を迫られました。
 神への信仰、神の救いを信じてロドリゴ神父は踏み絵を拒否していました。
 しかし、踏み絵を拒否した隠れキリシタンたちの拷問や縛られて海へ沈められたりして命を奪われる現場を見せつけられます。
 また、踏み絵をしても逆さ吊りにされ、拷問を受け苦しむ現実をロドリゴ神父に見せつけて踏み絵を迫りました。
 そして、ロドリゴ神父に踏み絵をすれば彼らを助けると脅迫しました。
 ロドリゴ神父は沈黙する神の声を聴こうとしますが、苦しむ弱者たちに耐えられず、命を救うために踏み絵をしました。
 宣教師・フェレイラも同じ試練を受けて踏み絵を行ったことを知ります。
 キリスト教団と神父、棄教を迫る幕府権力と信者の葛藤と苦しむ人間の心や命が問題となっているのです。
 現代も続いている国家や組織、権力と強者、弱者との関係が取り扱われています。
 踏み絵を行い、密告、裏切りを繰り返したキチジローが「弱者はどこへ行って、どう生きるか」と叫ぶのが痛ましいです。
 キチジローは「信仰は教団や国家のためにあるのでなく、弱者も含めて一人ひとりの心にある」と言っているようです。
 原作にはないが、ロドリゴ"神父"の心は、没してお棺の中で組んだ掌の中にはキチジローからもらった小さくて粗末な手作りの十字架に込められていたと思います。
 一人ひとりの心の内だけは、教団、権力などの如何な力を持ってしても奪えない!

「天命起臥之道」に生きる
このページの一番上へ