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茶の湯文化は日本のグローカル文化

信天翁(アホウドリ)喫茶主
医学博士 山中 直樹(宗直)

健康で文化的な日常茶飯の生活 4

心の絆・・2

姜尚中著「悩む力」は、この不安定な時代にあっての個人が大切とすべき生き方を求めた良著であり話題ともなっていますが、夏目漱石の影響を強く受けています。
夏目漱石は大正時代に当時、「金力」、「権力」を持つ親の子息が多かった学習院での講演『私の個人主義』に加えて同時期に出版された小説『こゝろ』にあっての閉鎖的特殊な人間関係をベースとする「愛力」より、友達との「真面目」な信頼関係たる「心の絆」の大切さを説いています。
「愛力」については、何よりも大切、重要と強調されることが多いと思います。
しかし、恋人、夫婦、主従などから始まり、この地球上の争いは「愛力」による思い込みは容易に破れ、憎しみや利害がより激しくなります。
我が国で言えば、万葉の時代の歌に始まり、現代にあっても「愛力」の「移ろい」をベースとした悩み、諍い、憎しみ、暴力、殺戮が繰り返されていることからも判ります。

喫茶、茶の湯文化で、「喫茶去」「且坐喫茶」との言葉が生きているのは、「まずは、茶でも一杯」から始まるコミュニケーション文化として喫茶が人間的心の絆を育むからです。
特定の人達が集団を形成して権威、自己満足や利害関係を求めるのは、茶道とその周辺でも例外ではないとは言え、決して、それだけの文化ではないのです。
茶の湯や茶道の歴史は、今日的に言えば、権力者や金持ちなど裕福層の人達によって営まれ、発展してきました。
不幸にして、歴史的にも、今日的にも、貧乏人の文化とは言えません。
また、茶道を取り巻く世俗性が先入観やイメージとなっているに過ぎないのですが、茶道は道楽的との思いが多くの人達にあります。
しかしながら、今日に至るまで東山名物、大名物と有難がっている茶道具は生活雑器から先人によって見立てられて取り上げられ、その後、「権力、金力、政治力、商売力」によって付加価値、幻想、虚像などによって修飾された商品なのです。
唐物茶碗や井戸茶碗は国宝などとなって有難がられていますがそもそもは飯茶碗だったのです。
先人の見立てによって、抹茶茶碗として転用されたのです。
また、茶入れは薬瓶などだったのです。
更に、残念なことに、今日の工芸芸術家と呼ばれる人達の多くが、「御飯茶碗」を作るより「御抹茶茶碗」、「御茶入れ」と呼ぶ商品を製造すると高価で取引可能となるために、茶碗としての用よりオブジェ化したような陶磁器を作成している御時世と言えます。

以上のような現実に、「真面目」な「心の絆」を育む信天流レトロモダニズム的な「喫茶去」「且坐喫茶」が不安な時代の「悩む力」となると思うのですが。

茶の湯文化は日本のグローカル文化
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