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信天翁(アホウドリ)喫茶主
医学博士 山中 直樹(宗直)

小山硬の極小日本画と文化


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日本美術院を代表する日本画家・小山硬は本シリーズ第40回で取り上げた。私は小山師の白描淡彩画が好きだ。繊細で純化した精密な極小画を拝見した。忘れられた日本文化の伝統を踏まえた日本画の粋だと感じた。

赤瀬川原平師(芸術原論、本シリーズ第16,17回)が説く日本画は「日本画といえば、ハッとしてドキンとする新しさをまず思う。心静かに、日本刀でスー と描いたような、絶対に失敗の許されないような、一回性の緊張」、「侘び寂び、一期一会に通じる一回性の緊張と輝き」なのだ。同感だ。小山師が、まさに、 ピッタリの日本画を伝承している。

もし、「一期一会」の造語者の井伊直弼(第10回)が日本画について述べれば、『幾度と同じ絵と会するとも「我一世一度の会」を感じさせなければならな い』となろう。私は「一期一会観」のある絵は微妙な息づかいが感ぜられる精密な「線」、「間と余韻」、「単純化と暈し」から生まれると思っている。

加えて、私は日本文化には「極小化」を求める思考があると思っている。そして、そこには「宇宙観」が不可欠だ。

 「箱庭」「盆栽」「日本の庭」「茶室」「俳句」等といずれを見ても、自然と共鳴する極小化に宇宙観が感じられる。近年にあっても、小型化思考がある。 車、ノートパソコン、超微細加工技術(ナノテクノロジー)と日本は小型、極小化に活路を求めて世界に通用している。日本文化の伝統に沿う「負の思想」だ。

日本美術院の始祖で「茶の本」の岡倉天心(第12,13回)と「武士道」の新渡戸稲造は、茶の湯文化に日本文化の真髄を見出し、国際社会に発信した。ま た、哲学者の谷川徹三(第14,15回)は外国人に向かって、茶の湯は日本特異ではあるが、普遍性に通じる日本文化だと説いた。つまり、西欧の「完全なる もの」「正の思想」に対して、岡倉天心の「不完全なるもの」、赤瀬川師の「負の思想」が日本文化の普遍性ある特異だと判る。繊細な極小精密に宇宙観と一期 一会観の世界だ。

 

しかし、日本画界は何故か忘れてしまっている。現実の日本画は赤瀬川師の言う「積立貯金の絵の具の固まり」で塗り埋め尽くしたような絵をしっかり描いてあると有難がっている。悪夢といってよい。

以上、日本文化の伝統にして普遍性ある流れから、小山師の極小精密白描淡彩画は日本画の極みと言えるものだ。一期一会の喫茶や極小空間での茶の湯にピッタリだ。

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