愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

私の茶寄り合い

信天翁(アホウドリ)喫茶主
医学博士 山中 直樹(宗直)

数寄と粋狂の師・故鈴木末造

直心な人との関係に「数寄と粋狂」は心豊かな人間味ある関係が一層増す。水墨の世界に「間」が必要であり、茶の世界では「残心」が求められているようなものだ。

私に数寄と粋狂の大切さを教へ、実感させてくれたのが故鈴木末造師だった。前回に紹介した故鳥居功冶師と同じく、私の生まれた隣町、碾茶の里、西尾市の出身だ。

末造師は型破りと言って良い愛知県庁のお役人だった。その後、愛知県共済の理事長などを務めていた。そうした時期に私はしっかり指導を受ける幸運なチャンスがあった。20年以上前のことだ。

当時、私は陶磁器趣味を持っていることになっていた。と言っても、実体はお金がないから、美術館等での展覧会にはせっせと通い、学会等に行った折には、近くの陶磁関係の地や人達を訪れていた。買うことがあるとすれば、どんな偉い人が造っても大変安い湯飲み茶碗程度だった。

末造師は、日頃、ダークスーツを装ってはいた。しかし、裏地は深紅に浮世絵のような絵が描いてあるような出で立ちで私の前に現れるのが常だった。そして、「おい、敬也の所へ行くぞ」と言った調子だった。敬也とは既に紹介した加藤敬也師のことだ。

時に敬也師の所では、一窯で焼いた茶碗を一括購入するのである。また、料理名人の敬也夫妻に、例えば、自然薯料理を注文したりして楽しむのだ。四季折々の末造師が好む特注があり、何時も、数寄と粋狂があった。

「おい!すぐ家に来い」と夜間にお呼びがかゝる。一括購入した茶碗をランク別にしようと言うのだ。Aランクの中から、更に、5個の特上品を選ぼうとなる。その内から、「一個はお前にやる。俺も一個とる。先にお前が選べ」と言う。その選んだ茶碗に「お前は、まだ、判っておらん」と叱られた。

「お前は木工芸の良さが判るか」と銘木切れで工夫したお盆等を見せながら、木器の良さのお説教となる。お陰で自然木の美がよく判るようになった。

師の親友で銘木家の故畠山茶吉師を紹介された。茶吉師は銘木を真に愛した人で、数寄と粋狂、人間味も実に滋味があった。

末造師や茶吉師は社会的にも実力を持ちながら通俗的人物にない魂があった。日本文化の粋を日常生活に自然体として取り入れていた。両師の教え、「数寄と粋狂」の茶寄り合いは今も忘れ得ぬ「残心」となっている。

このページの一番上へ