愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

『食育』をはじめましょう

郷土料理研究家
栄中日文化センター提携 インターティアラ・お料理サロン 主宰
伊藤 華づ枝

お年寄りが寝こまないメニュー ~寝込んでボケる人はこんな食事をしている?~

 今もっとも注目されている「食育」。しかし、「食育ってなに?」とあまり深く知らない人も多いようです。
 そんな人々のために、今シリーズは「食育」をとりあげました。
 「高齢者のための食事とは」、「働き盛りの人のための食事とは」、「幼児のための食事とは」、「よく噛むことの大切さ」、「カルシウムの大切さ」など、基本的な知識と最適レシピを12回テーマでわかりやすくご紹介しています。

 第11回目のテーマは「お年寄りが寝込まないメニュー~寝込んでボケる人はこんな食事をしている?~」です。超高齢社会に突入した日本。寝たきり老人や痴呆症の人が増加し、特に痴呆症は周囲の人に与える影響も大きく、社会問題となっています。
 痴呆とは成人になってから起こる知識障害のため、日常の生活に支障をきたした状態をいいます。
 大別すると、脳血管障害による「脳血管性痴呆症」と、「神経細胞の萎縮によるアルツハイマー型痴呆」があります。
 痴呆症と食事の関係は、まだ確実なことがわかっていない面もありますが、血管の老化を食い止め、脳卒中の発作や神経細胞の衰退を防ぐための食事が大切と言われています。
 今回は、痴呆症を防ぎながら、お年寄りに楽しんで召し上がっていただける食事をご紹介します。


1. "よく噛む"ことが大切です
近年、"よく噛む"ことが老化防止につながるということが報告されています。
健康なお年寄りと痴呆症の人を比較してみると、痴呆症の人は残存歯・噛む力ともに半減しているということが分かっています。普段からよく噛み、歯を大切にする習慣を身につけましょう。

★よく噛むことのメリットとは
脳細胞の代謝が活発になり、血液の循環がよくなることで脳の働きを活発にします。
大量の唾液の分泌を促し、その唾液中の酵素によって食物の中の発ガン物質を消去し、老化現象や動脈硬化を予防します。

★よく噛む食事の工夫
やわらかいものばかり食べていたり、野菜を食べていなかったり、噛めないことによる栄養素の偏りは健康にとって好ましくありません。
各栄養素をバランスよくとるために、調理方法に工夫を凝らしましょう。
繊維の多い野菜などはとろ火で煮ると良いでしょう。
筋があり食べるのが難しい肉類なども、野菜と一緒に煮込めばやわらかく食べることができます。
かたくり粉で薄くとろみをつければ、むせにくく、のどごしも良くなります。
「筑前煮」
たっぷりの野菜と肉をやわらかくいただけます
「麻婆豆腐」
とろみがついて食べやすく、タンパク質もしっかりとれます

★歯を丈夫にする栄養素
カルシウム、ビタミンD、たんぱく質は歯を丈夫にします。
ビタミンAは歯茎を丈夫にし、歯周病を予防します。
ナイアシン、ビタミンB2は歯周病や糖尿病を予防します。
コラーゲン(たんぱく質)は歯茎を丈夫にし、血管強化に役立ちます。
葉酸は歯肉炎などを予防します。


2. 塩分を控えて長寿をめざす
食塩の過剰摂取が高血圧やガンを発生させやすいことはよく知られています。高血圧は動脈硬化を招き、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などを引き起こして痴呆の原因になりかねません。
特に、お年寄りは味覚機能の低下により、濃い味付けを好むようになります。
普段の調理にひと工夫して、薄味でおいしい食事を心がけましょう。

★薄味にするための一工夫
天然の食品を使っておいしく、濃い煮出し汁を作ります。
煮出し汁の材料=かつお節、だし昆布、干ししいたけ、煮干し、大豆など
柑橘類や酸味を上手に利用します。
柑橘類=レモン、すだち、だいだい、カボス、柚子、ライムなど
酸味=梅干し、ヨーグルト、ポン酢、酢しょうゆなど
香味野菜や香辛料を活用します。
「かりもりのレモン漬けサラダ」
柑橘類のレモンを上手に利用して、野菜をさっぱり食べます
「長芋とえのきのわさび酢」
わさびの風味とツルッとしたのどごしが食欲をそそります
新鮮な素材や季節感のある食品は、おいしさを引き立てるので、調味料が少なくてすみます。
食品の持ち味を活かした調理方法や、よく噛んで食べることも、素材の持ち味が味わえます。
塩味を一品に集中して使った方が、濃い味を好む人には満足感が得られます。
具だくさんの汁物は薄味になります。
亜鉛不足による味覚障害を予防するために、適量の動物性食品をとることや、亜鉛を多く含む食品もとるよう心がけましょう。
亜鉛の多い食品=かき、あさり、小魚、抹茶など

★調味料に含まれる塩分
薄味の料理や減塩食品も多量にとれば、減塩ではなくなりますので注意が必要です。
よく使う調味料の正確な塩分量を知ることが大切です。
調味料 目安(g) 塩分量
食塩 小さじ1(6g) 5.9g
うすくちしょうゆ 大さじ1(18g) 2.9g
こいくちしょうゆ 大さじ1(18g) 2.6g
ウスターソース 大さじ1(18g) 1.5g
淡色辛みそ 大さじ1(18g) 2.2g
赤色辛みそ 大さじ1(18g) 2.3g
トマトケチャップ 大さじ1(15g) 0.5g
マヨネーズ(卵黄型) 大さじ1(12g) 0.3g


3. 楽しく食べてボケ予防
お年寄りにとって、食べることは何よりの楽しみであり、生きていることの証でもあります。しかし咀嚼機能の低下に 伴い、今まで食べていたものが食べにくくなり、食欲がなくなってしまう人も増えてきます。すると毎日がまさに味気ないものになり、気力が衰えてついに痴呆 症になってしまうというケースも見受けられます。

★"目"で楽しむ食事
「食」の視覚的環境を100%とすると・・
   *目の前の料理5%
   *食器や小物30%
   *周りの風景65%
食卓まわりの環境が快適であるかどうかが、食欲に大きく関与していることがこの数字からも理解できます。

★昔懐かしいものをテーブルクロスやナプキンに
お年寄りは昔懐かしいものを好みます。
懐かしさから昔のことを思い出し、話の種になります。

「使用しなくなった着物の帯をテーブルの上において(ランナー)話題づくり」

★調理と盛り付けの工夫(彩り)で食卓に変化を
お年寄りは昔懐かしい味を好む傾向があります(季節の行事食は大切です)
手に持ちやすい器にゆったりと盛ります。
「手まり寿司」
昔から食べなれているお寿司をミニサイズで作ります
「小皿に分けて」
食べやすいように少量ずつ盛り付けます


4. お年寄りがおいしく楽しく食べられるレシピ

★かやくいなり寿司~昔なつかしレシピ~

■材料 分量:2人分・6コ分
1カップ
220~230ml
すし酢 25ml
たけのこ 50g
にんじん 40g
鶏肉 40g
干ししいたけ(水で戻す) 2枚
(A)  
しいたけの戻し汁 40ml
しょうゆ 大さじ1
少々
砂糖 大さじ1/2強
油揚げ(7~8cm角) 6枚
(B)  
砂糖 大さじ2弱
しょうゆ 大さじ1・1/2
和風だしの素 少々
■作り方
1. 米は洗って分量の水に浸け、1時間以上おきます。
2. たけのこ、にんじん、鶏肉、しいたけは小角に切ります。
3. 具を分量の(A)で煮上げてザルに上げます。
4. 1を炊いて蒸らした後、飯切りに移して、すし酢と3を手早く切るように混ぜて冷まします。
5. 油揚げは口を切り、中を袋状にしてから熱湯で充分に油抜きします。
6. 5をザルに上げて、ゆで汁を少し鍋に残し、(B)で煮ます。
7. 6の油揚げを軽く絞り、かやく入りのすし飯をつめます。

★マグロとモロヘイヤの磯辺和え~香味野菜を使った塩分控えめ対策レシピ~

■材料 分量:2人分
マグロ
(刺し身用・さく取り)
120g
モロヘイヤ 1袋(100g)
(A)  
しょうゆ 大さじ1
わさび(小袋) 1袋
糸のり
(またはもみのり)
1/4枚分
■作り方
1. マグロは1.5cmの角切りにします。
2. モロヘイヤは葉を取り、熱湯で色よくゆでて水にとって、冷やします。
3. 2を粗くたたきます。
4. ボウルに(A)を入れてよく溶き混ぜ、13を和えます。
5. 器に盛って糸のり(またはもみのり)を散らします。

★抹茶ミルクプリン~味覚障害を防ぐ亜鉛たっぷりデザートレシピ~

■材料 分量:ゼリー型4コ分
粉ゼラチン 15g
(5g×3袋)
大さじ4~5
牛乳 600ml
砂糖 70g
(A)  
抹茶 大さじ1・1/2
大さじ3
生クリーム 0ml
砂糖 小さじ1
季節のフルーツ 適宜
■作り方
1. ゼラチンは分量の水で戻します。
2. なべに牛乳を煮立てて砂糖を加え、1を入れて溶かします。
3. (A)を溶き混ぜて2に加え、一度漉します。
4. 3をグラス又はゼリー型に流し入れ、冷やし固めます。
5. 生クリームに砂糖を加えて泡立てます。
6. 45と季節のフルーツを飾り付けます。

~参考文献~
  ・あたらしい家庭の健康料理  著者:伊藤華づ枝
  ・寝込まないボケない家庭料理 著者:伊藤華づ枝
『食育』をはじめましょう
このページの一番上へ