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やきもののやさしい鑑定

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

唐三彩の鑑定

今回は中国古代の陶器の鑑定です。

中国陶磁器の歴史は古く、しかも贋作の歴史でもあり、極めて難しい世界です。今回はその中でも、もっとも日本人に人気のある唐時代のやきものである「唐三彩」の真贋について考えてみましょう。

唐三彩は、漢時代(前202年から後220年)に「緑釉」という鉛の釉薬に銅を呈色材に使った美しいやきものの延長線上にできたやきものです。漢の緑釉は緑色一色ですが、もう一方に鉄釉がありました。緑釉の呈色材である銅は釉薬に混ぜて酸素の多い焔(酸化焔)で焼きますと緑色に変色します。織部の緑が同じ原理です。反対に酸素の少ない焔(還元焔)で焼きますと赤くなります。酸素は燃焼には必要なものですが、あまりに少なく酸素の流入を制限しますと窯の中の焔は消えてしまいます。やきものは土の中の微粒な長石が1000度以上の温度で溶け合って冷却の過程で固まり、強い焼き物に変貌すると前に書きましたが、実は窯に空気を多めに送り込むと酸化焔になるのですが、空気の温度は平常では20度とか30度ですから、窯の中の温度に比べて極めて低いわけです。ですから空気を多めに入れれば良く燃えるようにはなるのですが、実は冷たい空気が大量に窯に入ることによって燃焼温度が低くなり、微粒の長石が溶けなくなり、その結果、やきものの硬質化が起こらなくなり、土器と同じ柔らかいやきものになってしまいます。そのため、酸化焔といってもあまり多くの酸素を窯に送り込めないのです。やや多めにという程度です。ここが焼く技術の難しいところで、実は酸化とか還元という酸素の入れ具合は極めて微妙な具合なのです。先祖から受け継いできた陶工の経験と「勘」に頼るところです。

そのような難しい、微妙な技術と経験、勘からやきものは成り立っているのです。今回の唐三彩はその酸化焔で出る色の代表である銅による緑と、鉄による黄色(茶色にもなりやすい)、それに土の色である白、この三色から成り立っているやきものなのです。

その鑑定方法ですが、一番簡単な見分け方は、以前に書きました大きな見所である「カセ」です。釉薬の自然な剥離。長い年月による釉薬と土の収縮率の違いから来る釉薬の剥離を見れば、それが自然の剥離であれば本物と判断してもいいでしょう。

もう一つの重要な判断は、貫入です。これを見るには10倍のルーペが必要です。このルーペで唐三彩の釉薬に全面に入るヒビを観察します。10倍のルーペでも細かく貫入が見える色があれば、それはまず本物である可能性は高いです。写真でその貫入の細かさを比較してください。現代に造られた贋物の貫入は大半が荒めの大きな貫入です。カセはありませんが、中には無理やり釉薬を剥がしたものもありますから、注意が必要です。


写真1
偽物の貫入

写真2
本物の貫入
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