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やきもののやさしい鑑定

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

古信楽の鑑定入門

  「日本人は信楽と李朝で死ねる」ということばが骨董マニアの間にあります。 これは死ねるほど日本人の骨董マニアは信楽と李朝を愛するということをあらわ しているのでしょう。その日本人に愛されて止まない信楽の鑑定のポイントにつ いて今回は述べて見ましょう。信楽焼きの始まりは諸説ありますが8世紀頃の須 恵器と同じ古さを持つとも、また平安後期に常滑の陶工が来て始まったとされて いますが、決定的なところはまだわかっていません。ただ鎌倉時代後期ころから 特徴あるすぐれた作品が多く見られることから、このころから本格的に焼かれ始 めたのではと考えられています。
では信楽には多くの見所がありますので、順に見ていきましょう。

1.長石が全面に出ている。
これは信楽のもっとも代表的な鑑定ポイントです。つぶつぶの大きな白い長石 が肌から全面に吹き出ているように出ています。壷ならかなりの確率で信楽です し、花入れ、水差しなどの茶道具でしたら伊賀を思い浮かべるべきでしょう。(写真1)


写真1

2.ウニ
信楽の土は荒めの風化花崗岩で、この粘土の中に風化しきってない木の節が混 ざっているものがあります。これを木節粘土(きぶしねんど)といいます。この 節が粘土の中に入りますと、燃焼したときに高温で燃えてしまいます。するとそ の節があったところは空洞になります。これを語源はわかりませんが「ウニ」と いいます。それが写真2です。ですから大きな「ウニ」になりますと中から外へ と穴が抜けてしまっているものがあります。
壷ですと穴があいていては、役に立たないので破棄されてきました。多くの信楽 のやきものにはこのウニが表面や裏側に見ることができます。この木節粘土が高 温で焼かれると、マニアの間で「ビスケット肌」ともいわて愛玩されます。あた かも割れたビスケットの肌を見たような感じになります。


写真2

3.美しいビードロ釉
信楽の大きな魅力の一つに、美しく薄いグリーン色のビードロ釉があります。 独特の白い木節粘土に薄い透明感の強い独特の釉薬が流れ、そのコントラストに はとても美しいものがあります。(写真1と同様)

4.そして、もういくつかの特徴
その最後の特徴は「檜垣文」(写真3)です。


写真3

これはすべての作品に入るわけで はありませんが、室町の信楽作品に多く入った物をみます。多くは二重線の間に ×印が連続した文様です。通常は肩に近いところに入りますが、少し古いもので は壷の腰からやや下のあたりに檜垣文が入る場合があります。この檜垣文は陰陽 道などによる魔よけの×印とも考えられています。写真では斜めの線がやや見に くいみたいです。
 また信楽の作品の大きな魅力に形の力強さがあります。横から見ますと胴が幾 つかに分けて継がれながら出来ている痕跡を見る事ができます。胴が側面で段を なしているように継ぎ目の角度が違って、遠くから見ると非常に力強い造形を楽 しませてくれます。
このように信楽には茶道の「侘び・寂び」の雰囲気があります。飛び出ている 長石、木節によって穴のあいた地肌、ビスケット肌。淡いグリーンの自然釉。そ の素朴でいて力強い造形を持つ信楽は、これからも日本人を魅了して止まないやきものだと思います。

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