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やきもののやさしい鑑定

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

備前のやきもの

今回は備前のやきものについてお話いたします。
備前焼きは古くから岡山県の山間地域や伊部を中心とした地域で焼かれたやき ものをいいます。もともと須恵器という古墳時代の黒いやきものが多く焼かれた 地域で、いわゆる我々が通常目にする赤いやきものとしての備前焼きは、はたしていつ頃から焼かれるようになったのでしょうか。


室町時代の種壷

 よく引き合いに出されるのが、国宝の「一遍上人絵伝」です。この中に備前の古い町である「福岡の市」の様子が描かれており、その絵の中に大きな壷が描かれています。その色合いが黒かったり、赤かったりに描かれています。そのため備前のやきものはこの絵伝が成立した1299年の頃に黒から赤いやきものに移行したと考えられています。
 黒から赤い焼き物に変わったとは、煤が多く発生して黒くなる「還元焔焼成」から、やきものが赤く変化する「酸化焔焼成」に変化したことを示しています。なぜやきものが赤くなるのでしょうか。みなさんは小さい頃、学校の理科の実験で、鉄の釘を水にさらして置いておくと、赤く錆が出たことを覚えているでしょう。それを酸化現象といいます。それと同じ事がやきものを焼く窯の中で起きたと思えばいいのです。すなはちやきものの原料である土の中にある鉄分が、燃焼するときに窯の中に入ってくる酸素と結びついて赤く変化するのです。これが赤いやきもののできる原理です。信楽の赤も同じ理由からです。
 すなはち備前はやきものの色を主流である赤に変化させたのです。それは一説に常滑という中世最大の窯場の作品が備前の商圏を侵して、瀬戸内海に進出してきたから、それに対抗して同じ赤のやきものに変えたともいわれています。それゆえに備前はその地位を保ち、現在まで人気あるやきものとして存続してきたともいえるのです。

 さて今回の備前のやきものについてですが、備前といえば桃山の茶陶としての備前が一番人気があります。その人気の秘訣は、他のやきものと比べて、作品の味わいとしての変化が多いからともいえます。まず火襷(ひだすき)が一番人気でしょう。三本シャープの窯印のある徳利の写真には、かすかですが薄黒い線が見えるでしょう。これが火襷です。もう一つの徳利には自然の釉薬がかかっています。そして更に焦げやゴマなどと称する窯変も見られます。一番の見所は良く精製された細かい土です。伊部の土とか田土とよばれています。田んぼの中から採取されるので、田土ともいわれます。それから桃山時代から江戸時代のお茶に使われた備前焼きの特徴は、畳に接地する高台や底が丁寧に仕上げられていることです。茶道の懐石料理に使われるため、漆などの高価なお盆などにキズをつけないための配慮とも考えられます。底をしっかり見ることが大切です。また壷作品に多いのは、口の縁が丸くなっている「玉縁」が備前の特徴です。写真の壷は 室町時代の作品で、この口は例外的に尖り刃風になっています。通常は丸い縁となるものが多いです。



窯印の入った桃山時代の徳利

変化の多い桃山時代の徳利(花入れ)
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