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やきもののやさしい鑑定

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

古伊万里の鑑定

 伊万里磁器は骨董の世界では非常に人気ある分野ですから、骨董を勉強したいと考える方はきちんと勉強していただきたいと思います。
 数年前に伊万里ブームがありまして、大変高額な値がついたことから贋作が横行しました。そこで初心者の皆さんがこうした贋作を見極めるにはどうしたら良いのかということを考えてみたいと思います。

 伊万里の研究・鑑定は文様、形、釉薬の掛かり方、磁器の厚さ薄さ、釉薬を掛けたところに残る陶工の手のあと、呈色剤である呉須(酸化コバルト)の色合い、色絵釉薬の色合いなどを手がかりになされますが、どれ一つ取り上げても初心者には難しい鑑定方法で、例外も多いことばかりです。
 そこで簡単に見分ける方法がないか考えてみましたが、初心者にもわかりやすい以下の3点がもっとも簡単で、しかも真作と贋作を見抜く確立の高い方法であることに気が付きました。しかし贋作作りはこういう見分け方を発表するとそれをまた工夫して上を行く贋作を作りますから、これではいわゆる「いたちごっこ」になりかねませんことをつけ加えておきます。

●1番目のポイント
皿などの作品を横から水平にして見たときに、皿の縁が手前と奥でゆがんでいること。水平にしたときに、皿の縁が前も後ろもすべて水平に近いものは、怪しいものが多いということです。(写真参照1・2)

写真① 一番目のポイント「ゆがみ」
ゆがみのある江戸時代前期の伊万里皿

写真② ゆがみのない、現代の皿
これは昔の作品はすべて薪で窯を焚き、しかも温度計がない時代のこと、温度管理を目に頼ったためか焼成の温度がつねに上下したためと考えられます。 焼き物は高温になると20%から25%収縮します。それがむらのある温度で焼成しますと陶磁器の「ゆがみ」「ひずみ」「割れ」の原因になります。 現代に焼成されたいわゆる贋作は、生産に手間のかかる高価な薪を使うわけにはゆかず、安価な石油、ガス、電気を使った窯で焼成します。 またそうした現代の窯はコンピューターによる温度管理がなされ、一定温度で長時間の焼成が可能になりました。 その結果温度差による「ゆがみ」「ひずみ」「割れ」が極めて少なくなりました。そこで皿を水平にしてゆがんだ皿であれば本物への第一段階は合格ということになります。

●2番目のポイント
 さて次は表面をしっかり見てください。若干の例外もあり ますが、お皿であれば縁や見込み(皿の表面をいう)を見ると、小さなキズが無数についています。(写真3)

写真③ 伊万里の皿についた多数のキズ
いわゆる使用された事の証明としての使用痕です。長い間実際に使われたことによるスレキズで、10倍程度のルーペならしっかり見えます。 ポイントは無数の小さなキズがそれぞれ違った方向に向いて付いていることです。水平にすべてのキズが付いていたりするものは、サンドペーパーなどで後で故意に付けられた可能性があります。 小さいキズが無数に、しかも多方面についているものであればよいでしょう。徳利や壷なども表面を詳細に観察してください。

●3番目のポイント
 最後は「テカリ」です。テカリとは表面の釉薬の反射です。 これは2番目のポイントでの小さいキズが無数に、しかも多方面についていることにも関係しますが、出来立ての作品はピカピカしています。 古い作品、特に数百年を経ている古伊万里の磁器などには釉薬の劣化現象(時代を経ると釉薬が次第に光沢を失なってゆく現象)と小キズのためこのテカつきが少なくなります。 それからお皿の見込みの反射が鏡のようにまっ平に見える場合(写真4)は新しい作品の可能性が強くなります。

写真④ ゆがみの無い、たいらな面の現代作の写真
「ゆがみ」と無数の小キズ、テカリが少なく、見込みの反射がムラがあれば真作である可能性が高くなります。(写真5)

写真⑤ 乱反射のある真作・古伊万里の皿の写真

 この3点のポイントをしっかりマスターされますと、贋作のかなりの部分を排除できると思います。 しかし贋作の中には極めて巧妙なものがあることと、例外もままあるということを知ってください。骨董の鑑定は「これで完璧」ということはありません。 あくまでも簡易な見分け方であり、それ以上のポイントはみなさんがこれからいろいろな作品に出会って、日々研鑽していただかなければなりません。それが本当の面白さなのです。

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