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骨董で贋作をつかまないシリーズ

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

真物をよく観ること

ニセモノを買ってしまう大きな原因の一つに、本物を知らないということによることが多いようです。誰でも最初は何も知りませんから、どれが本物で、どれが贋物かわからないので、それも致し方ないかもしれません。
東京日本橋の有名な古美術商である不言堂の坂本さんのように、贋作を買うことで本物を学んできた偉大な先人もおられますが、素人の皆さん方に同じ事を要求することは出来ません。そこで一番身近で手軽な方法は、自分の美的感性、感覚を磨き上げることしかありません。坂本さんのように身銭を切って買うことで、真贋が骨身にしみて分かる場合は身につきますが、それが経済的理由で出来ない場合は、美術館、博物館を出来るだけ回り、平常展や特別展でさまざまな美術品をご覧になり、本当の美術品の美しさを知ることが唯一残された道でしょう。
美術鑑賞にとって、感性を磨くことが一番大切です。細かい鑑定ポイントを学ぶことも大切ですが、全体の美しさ、バランス、色彩の妙というものを身に付けられた方が本質的な美の理解は早いかもしれません。 

私は以前、この作品はどうして美しいといわれているのですか?と問われたときに、こう答えたことがありました。「それは街を歩いていて、どの女性が美人なのか判断の基準を教えてくれといわれているのと同じです」と。「美」というものを明確に一言で規定することはとても難しいことです。難しいというより、不可能かもしれません。それより見慣れること、街を歩いていてたくさんの女性を見ていれば、おのずと自分にとっての美人がわかってくることと同じことなのです。
「美」というと難しく考えがちですが、考えてみれば当たり前のことでもあるし、意外と簡単なことなのです。ですからたくさん美しいといわれているものを美術館、博物館で見ることです。そうすればいい加減なものや、贋物でも簡単なものはすぐ判断ができるようになります。 

ニセモノを手にしてしまう一番多い事例は、知らない領域の物を買うケースですが、それは同時に売り手である業者を信じて購入してしまうことによる場合も多いということを物語っています。それはとても不幸なことではありますが、こうした場合、買う前にしっかり勉強していれば、作品を見てかなりの確率でニセモノを排除できたことはいうまでもないでしょう。日ごろから博物館や美術館で優品をみておけば、少なくともレベルの低いニセモノを購入するというミスは犯さなかったに違いありません。
かつて古美術商での丁稚教育の一環には、いいものしか丁稚には見せないということがあったようです。だめなものを見せると眼が曇るといいます。常に初心者にはいいものだけを見せるということが不可欠のようです。ですからいいものだけ観ていれば、悪いものはすぐわかるようになる、悪いものだけを観ているとよいものがわからなくなると昔の目利きは考えました。真作だけを見続けることが最初の段階ではとても大事だということなのです。

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